男小道具飛び道具「ブラウニング380の話」

BROSの少年時代(昭和44年あたりの話です)

BROWNING 1910。今はこう言うらしいですが、わたしはブラウニング380だと思っていました。

PPKを通信販売で買ったあと、しばらくは火薬を使って毎日のように遊んでいました。
最初は「一丁あれば僕はこれで充分!」と思っていたのです。甘いですね。
しばらくするうちに違うガンが欲しくなってくるのです。
あの頃TVの洋画では「0011ナポレオン・ソロ」や「スパイ大作戦」・「原潜シービュー号」などが少年の話題の中心でした。

邦画では「ザ・ガードマン」が印象に深く残っていて、「ガードマンがなんで銃を持ってるの?」と微かな疑問すら抱かず見ていた思い出があります。
ガードマンの一人、深津祐介が物語の中でブラウニング380(こう言うほうがわたしにはピンとくる)を使っていたんです。
スリムで突起物が無く、手のひらサイズの拳銃。それがブラウニング380でした。
見ると欲しくなる。新しいモデルガンに興味が移るとだんだんPPKに触れる機会も減ってきました。

わたしの住む奈良と大阪は電車で30数分。今は奈良から大阪ナンバまで行けますが、その頃は上本町が終点で、ナンバへは路面電車が走っていました。ナンバまでの地下工事中の頃です。
その頃の奈良にはモデルガン専門店は無く、大阪には数件ありました。一番近いところを探すと日本橋にそのお店はありました。

奈良からほとんど出たことのないわたしは大阪の地理を知る由もなく、地図を片手にようやくたどり着きました。
店の前には強面(こわもて)のお兄さんがマッチの軸を点数にして賭事に興じています。ちょっと怖い。
勇気を出して「あの~、モデルガン、見せて欲しいんですが・・・・・
ジロッと睨まれた。
もうこうなったら買わずに帰るなんて出来そうにも無くなりました。
目の前のガラスケースの中には何丁も黒いモデルガンが並んでいます。見せてください、なんてとても言えそうにない雰囲気の中で、店長らしき男性が声をかけてくれました。
「なにを探しているの?」「ブラウニング380です」「ほならこれやね。」って言ってショーケースから取り出してくれたのはあのTVで何度も見たスリム&キュートな拳銃でした。
空撃ちはしないでね。」と丁寧に言われたのをはっきりと覚えています。その理由は後になって判ったことですが。
コレ、ください。」そう言って三千なにがしの金額を支払って手に入れたスリム&キュートなブロウニングは無地の茶封筒に入れられて車中の人となったのです。

後日談

空撃ちはしないでね。と言われたことが触っているうちに理解できました。
このブラウニングのファイアリングブロックの強度が極端に弱かったのです。
作動方法はこんな具合です。
1)マガジンに弾を込める。(すでに火薬はカートリッジの先端に入っているわけでして)
2)グリップにマガジンを差し込む。
3)スライドを強く後方に引く。
4)すると問題のファイアリングブロックはスライドと共に後退して、シアーに引っかかるのです。
その後が問題でした。
5)スライドをパッとリリースするとマガジンの最上段にあるカートリッジをチェンバーに送り込んでとなるのが本来なのでしょうが、これは違っていました。
スライドだけが戻るのです。
じゃあ、発火はどうなっているのかって?
6)引き金をひく。
7)シアーに支えられて後退していたファイアリングブロックがシアーから外れる。
8)バネの力で前進する途中で、マガジンの最上段にあるカートリッジをチェンバーに送り込む。
9)チェンバーから突き出している前撃針にカートリッジがアタマからぶつかって発火。
とまあ、こんなサイクルです。
ほとんどサブマシンガンですね。ディスコネクターもなにも付いてはいません。

このファイアリングブロックのシアーに掛かるところの肉厚が非常に薄くて、真鍮のカートリッジを押し込む度にストレスが集中していたようで、ある日ポロッとマガジンから光るものが落ちたのに気づいたのが最初のトラブルでした。
こうなったら撃つことも出来ません。パーツリストに書いてあるファイアリングブロックを電話で注文したのはもっと後になってからのことでした。

なんですぐに注文しなかったかって?
小遣いの数ヶ月分もするモデルガンが数日で壊れりゃアンタ、汚れ無き(?)少年には立ち直る時間が必要だったんですよ。